INTRODUCTION

“表現の自由”が熱く議論される令和元年の夏。助成金返還、映倫R18+指定。5年間封印されてきた映画『解放区』があなたに問いかける。見せる見せない、見たい見たくないは、いったい“誰が”決めるのか!?“表現の自由”が熱く議論される令和元年の夏。助成金返還、映倫R18+指定。5年間封印されてきた映画『解放区』があなたに問いかける。見せる見せない、見たい見たくないは、いったい“誰が”決めるのか!?

 2019年8月3日「あいちトレンナーレ」の企画『表現の不自由展・その後』の展示が中止に追い込まれた事件が波紋を呼び大きな社会問題となった。脅迫のFAXを送ったとみられる男が逮捕されたが、それだけで問題の解決に繋がるとは到底思えない。特に、助成金を貰って、公共の施設でこの様な展示を行うこと自体がおかしいという意見が政治家を含む公職者、また一般の方々の間からも噴出している事は、政治(行政)が市民の思想・信条に介入し、その自由を侵す危険性を孕んでおり、そういう風潮をも助長しかねない。その果てにあるのは、想像するのも恐ろしい社会である――。

映画『解放区』は、2014年に大阪での映像制作者の支援と、映像文化の発信を目的とした助成金を得られる企画の募集で助成対象となり、大阪アジアン映画祭での上映を目指して制作が開始された。しかし、完成した映画は、大阪市(担当機関及び担当者)の意向に沿っている作品とはならず、内容の一部修正を求められる。太田信吾監督がそれを拒否したことにより、映画祭での上映は中止される事となった。この一件は、当時ニュース番組等でも取り上げられる事態へと発展した。お互いの主張は平行線をたどり、最終的に太田監督は助成金を市に返還、自らが納得できる作品の形での上映を目指す。しかし、東京国際映画祭をはじめとした映画祭と数度の上映会にとどまり、現在にいたるまで劇場一般公開がかなわず、もはや<幻の映画>となりつつ月日が流れた。


2014年5月13日放送されたMBS毎日放送<VOICE>より

 もちろん、助成金を巡る一件が上映にネガティブな作用を及ぼしたのは事実ではあるが、その全てではない。では、なぜ映画祭や上映会での評価が高かったのに公開が見送られ続けたのか。ひとつにはこの作品の持つ「危険な気配」がある。“なんかヤバいことしてない?”“これ近づかない方がいいんじゃないか”と観る者の防衛本能を呼び起こすのである。しかし、その“何”をヤバいと感じるのか、危なさの正体が“何”なのかが具体的な言葉で語られたことは少ない。皆、口を噤んだのである。そうして、この作品が埋もれている5年の間、世の映画を含む表現の状況は、より悪化の一途を辿ってはいないだろうか?

 2019年、期せずして、釜ヶ崎の「あいりん労働福祉センター」が閉鎖され、「あいちトレンナーレ事件」も起こった。それに引き寄せられるかのように映画『解放区』は、テアトル新宿を皮切りに10月18日(土)から劇場一般公開が始まる。誰かにとって良い悪いではなくて、観てくれたひと自身がどう感じ考えたのかを好き勝手自由に自分の言葉で語って(もちろんひっそり胸にしまい込んでもらっても良いです)ほしい。この映画が上映される場が、あなたにとって“解放区”となることを願ってやまない。

「コンプライアンス」、「リテラシー」が声高に叫ばれている今…。5年の歳月を経て、“何が問題なのか?”を問われるのは、“映画”か、それとも“観る者”か!?「コンプライアンス」、「リテラシー」が声高に叫ばれている今…。5年の歳月を経て、“何が問題なのか?”を問われるのは、“映画”か、それとも“観る者”か!?

 友人の自殺を直視したドキュメンタリー映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(2013年)が国内外で反響を呼び、また俳優としても活躍の場を広げる太田信吾が、再開発に揺れる大阪は西成区・釜ヶ崎に漂着する若者をドキュメンタリーの手法を活かし、リアリティ溢れる描写で表現した初の長編劇映画監督作品。かつて本作への助成金に関して大阪市との見解の相違から映画の存続が危ぶまれ、その議論は各所に飛び火した。それでも「貧困や病気、犯罪は、個人の問題ではなく、社会システムを受容しているわたしたち一人ひとりに起因する。」という彼の強い信念が多くの人を動かし、地元住民や商店主などの協力を得ながら映画は2014年に完成した。しかし、その後東京国際映画祭、光州国際映画祭に正式招待されるも永らく一般劇場公開が見送られてきた。なぜなのか?5年の封印を経て、いまその“映画”の全貌が明らかにされる。平成を超え、ついに新時代・令和となって解放された“問題作”遂に劇場公開。

驚愕のラストに、あなたはもうただの<傍観者>ではいられない―。驚愕のラストに、あなたはもうただの<傍観者>ではいられない―。

 ドキュメンタリー作家になる事を夢見る“未満”の青年は、先輩ディレクターとの理不尽な上下関係や被写体との接し方に悩みながらも、小さな映像制作会社で働きながら未だその途中である。夢を語り理解を示してくれる恋人もいるが、ある現場で先輩の取材姿勢に憤りを爆発させてしまう。職場での居場所を失った彼は、新たな居場所を探すかのように、かつて出会った希望を見失った少年を取材する為に大阪、西成へと向かう。しかし、少年の行方を掴む事は出来ない…。1人で問題に向き合えず、東京で取材した引きこもりの青年を呼びつけ、行きずりの女性に愛を語り、誠実さに欠ける取材を続ける。少年を探しながら街を彷徨う日々。そして、自らの弱さと甘さがもたらした結果から、一歩また一歩と後戻りできない道に迷い込んでいくのだった。

2014年第27回東京国際映画祭〈日本映画スプラッシュ部門〉正式招待
2015年光州国際映画祭 「Humanity Vision 部門」正式招待
2017年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭〈ゆうばりシネマテーク〉正式招待

エグゼクティブ・プロデューサー:カトリヒデトシ|プロデューサー:筒井龍平、伊達浩太朗
アソシエイトプロデューサー・ラインプロデューサー:川津彰信
監督・脚本・編集:太田信吾
撮影監督:岸建太朗|録音:落合諒磨|制作:金子祐史|音楽 : abirdwhale|Kakinoki Masato
助監督:島田雄史|制作助手・小道具:坂田秋葉|録音助手:高橋壮太
制作応援:荒金蔵人|現地コーディネーター:鈴木日出海、朝倉太郎|撮影助手:鈴木宏侑
エンディングテーマ:ILL西成BLUES -GEEK REMIX- / SHINGO★西成
(作詞:SHINGO★西成 / 作曲:DJ TAIKI a.k.a. GEEK)©2007 by Sony Music Publishing(Japan)Inc.

出演:太田信吾、本山大、山口遥、琥珀うた、佐藤亮、岸健太朗、KURA、朝倉太郎、鈴木宏侑、籾山昌徳、本山純子、青山雅史、ダンシング義隆&THE ロックンロールフォーエバー、SHINGO★西成 ほか

製作:トリクスタ|制作プロダクション:トリクスタ、ハイドロブラスト
宣伝:contrail|デザイン:武田明徳(VOX)

『解放区』上映委員会(トリクスタ+キングレコード+スペースシャワーネットワーク)
2014年/日本/カラー/ビスタ/114分/DCP/英語字幕付き上映/R18+/英題:Fragile
配給:SPACE SHOWER FILMS|©2019「解放区」上映委員会|kaihouku-film.com